昨晩は大変だった……ゾルダはいつものことながら、フォルトナも飲むなぁ……二人して盛り上がっていたけど、今のこの街の状況忘れてないかな。ちょっと心配だ。案の定、二人とも朝になっても起きやしないし……昨日ゾルダがフォルトナにどんどん酒を勧めるから、ほとんど話が聞けていない。だから、今日はしっかりと話を聞いて対策を考えないとと思ったけど……「おーい、ゾルダ、フォルトナ。 もう昼過ぎだぞ。 そろそろ起きてくれないか」隣の部屋の扉をノックする。「ん…… もう少し、もう少しじゃ」「むにゃむにゃ…… まだまだ足りないよー」なんだよ。寝ぼけているのか。「いい加減起きろって」バーンと扉を勢いよく開ける。「ホントにさー 眠いのは分かるけど……」まだ寝ているのか布団を被っているゾルダとフォルトナ。ここは……「秘技、布団はがしー」一気に覆っている布団をはがす。って、えー……「おっ……お前ら…… なんで何も着てないのー」「んっ…… 何でと言われてもじゃなぁ…… 確か、飲んで帰ってきてじゃのぅ……」「うーっ ……そんなの暑かったらだよー」「わっ、分かったから、とにかく着てー」もう目のやり場に困るから早く着てほしい。「なんじゃ、おぬしがなんで慌てておるのじゃ? ワシはおぬしに見られて困ることはないぞ」「むにゃ…… ボクは……えっと……」フォルトナは虚ろな目をして座り込んだ。目をこすって周りを見ている。そして、下を見た瞬間、目が覚めたのか、大きな声を上げた。「きゃーっ!」俺は慌てて扉を閉めて、外に出た。そして着替え終わるのを待つことにした。それにしても、暑いからって全部脱ぐかぁ。しばらくしてから様子が気になったので、扉をノックした。「コンコンコン」「もう服を着たか? 入ってもいいか?」「おう、もう着たぞ」「……うん、ボクも……大丈夫」着るものを着たみたいなので、部屋の中へ入る。いつもの姿のゾルダとフォルトナが居てホッとした。「あのさ、ゾルダには羞恥心というものはないの?」「なんじゃ、そのシューチシンというのは? うまい酒か?」「いや、そうじゃなくて恥ずかしくないのかってこと!」「全然じゃな」「ボクは恥ずかしかったよー なんで全部脱いじゃったんだろー もう恥ずかしい恥ずかしい恥
あやつはなんであそこまで怒るのじゃ。たかが酒を飲んで、服を着ずに寝ただけでのぅ。だいたい細かいことを気にし過ぎじゃ。いちいちちまちまと……もうちょっとおおらかになれんのかのぅ。あやつに小言を言われた翌日。ワシたちは……えーっと……誰だっけ?なんとかってやつの家族を助けるために南にある砦を目指すことになったのじゃが…「うー、暑いのぅ。 暑いのぅ暑いのぅ暑いのぅ」「ゾルダ、うるさいって! 俺だって、誰だって暑いんだよ!」小娘の娘がおる所為で、剣の中には戻れずにおる。なんでこんな暑い思いをしないといけないのじゃ。起伏の激しい砂漠を登ったり降りたりで……それだけでも疲れるのにこの暑さだからのぅ……「もう疲れたのじゃ。 どこかで休みたいのぅ」「あのさ…… いいじゃん、ゾルダはさ。 移動魔法で浮いているのに、どこに疲れる要素があるんだ」「これはこれで疲れるんじゃぞ。 ダラダラと力を使うからのぅ」あやつは移動魔法は疲れないと思っているのじゃろうか……確かに身体としては楽じゃが、地味に疲れるのじゃ。いっそ一気に力を使った方が楽なのじゃがのぅ。「あーっ、暑いのぅ。 この服、脱いでよいか?」「頼むから外ではやめてくれ! ゾルダに羞恥心が無いのは分かったけど、俺が恥ずかしい!」「ボクも恥ずかしいからやめてよねー」人というのはそういうものなのかのぅ……正確にはフォルトナは人ではないが、あの種は人と同じような生態なのじゃろう。こんな布切れを着ている着ていないで、態度が全然違うのじゃなぁ。暑ければ脱ぐ、寒ければ着るでいいと思うのじゃが……「フォルトナ、あとどれくらいで着く?」「そうだねー あともう少しかかるかなー ほら、あそこに見える岩山のところだよー」「微かに見えるような見えないような…… あれは蜃気楼じゃなくて?」「ボクは目がいいからはっきり見えるよー」「俺はほとんど見えないよ。 暑さでゆらゆらしているし、幻にも見えるし」あぁ、あそこか。あやつには見えにくいかもしれんのぅ。距離はありそうじゃから、今しばらくかかりそうじゃな。「さあー、頑張っていこー」小娘の娘は楽しそうじゃのぅ。いつでも脳天気で、あまり考えていない気がするのじゃが…---- さらに1時間程経過しばらく歩いておったが……
アグリたちに先んじて砦まで来てみたけど……状況は母さんたちがある程度調べていてくれるしーまずはその時と変わってないかの確認かなーたしかこのあたりにあいつらも知らない隠し通路が……あーっ、あったあったーこれで中には簡単に忍び込めるんだよなーただ問題はここからなんだよなー人質がいるのが地下の牢屋でーこの隠し通路まで見つからずにどうやって連れて行けるか……もう少し調べてみないとなー辺りを見回してサササッと物影に行き様子を伺ってみる。この辺りは誰もいないみたいだねー。もう少し先へ行ってみよー注意を払いながら先へ進んでみる。前から誰か来たーさっと飛び上がって、天井へ身を隠す。「しかし、クロウ様も人使い荒いよな! 何日も何日もここで人質のお守りだもんな。 しかも外へ出るなだし」「そうだな。 俺もそろそろ限界だ」「クロウ様も今はここにいないし…… ちょっとだけなら外へ行ってもかまわないよな」「俺も行くぞ。 退屈でかなわん。 ここの見回りが終わったら行こうぜ」クロウの手下も大変そうだな―ここの周りは何もないし、確かに退屈だよねー同情はするけどねーただバカな手下でよかったよーこいつらが外へ出たところで、人質を連れ出せそーとりあえずこいつら以外がどこにいるかを把握しよークロウの手下の二人が通り過ぎたので、さらに奥へと進んでみた。奥の部屋や上の階など部屋という部屋を見て回ってみた。ベッドで寝ている者椅子に座ってうたた寝している者他愛のない話をしている者おおよそ緊張感とはほど遠い状況だった。たしか母さんたちが調べたときはこんなんじゃなかったんだけどなー時間も経ってダレてきたのかな?トップがいないのもあるけどねーでも、こちらにとっては好都合だしーこれは人質救出、楽勝かもねーそうなったら、ゾルダに褒めてもらえるかもねーちょっといろいろ考えているうちに、手下の二人が外に出て行ったようだ。さてと……人質を救出しに行こー案の定、地下の通路から牢屋まで誰もいなかった。これはすんなりと行きそうかなーそして牢屋の前に来ると人質の1人が話しかけてきた。「あなたはいったい……」「しーっ! まぁ、正義のヒーローってことにしておいてー ここから助け出してあげるよー」牢の鍵も大したことがなかった。苦労もせず
フォルトナが先に行ってから、少しの時間が経った。合流地点の隠し通路の入口前で、フォルトナの帰りを待った。予定では人質が逃げてくるのを待って、フォルトナと合流。それからそのまま敵のアジトへ乗り込み一網打尽にする。そういう計画だった。しかしなかなかフォルトナと人質が出てこない。何かあったんだろうか。少し心配になりながらも、今は待つしかなかった。「おぬし、小娘の娘のことを心配しておるのか」ゾルダが俺の顔色を見たのか、話しかけてきた。「ちょっと遅いからな。 フォルトナの実力からすれば大丈夫だとは思うんだけど…… ちょっと抜けているところがあるし…… 失敗していければいいけど……」「そうじゃのぅ。 小娘の娘は調子乗りというかなんというか。 前も周りを見ずに突っ込んでいったからのぅ」たしかに。シルフィーネ村の北部の祠の時は大変だった。後先考えず走り出してシエロに捕まっちゃったし……「まぁ、あの時痛い目にあっているんだから。 今度は慎重にやっているだろう」言葉とは裏腹に、手のひらには汗が滲んできた。まぁ、心配は心配だしね。でも、信じて待つしかない。そんな会話をして待つも、一向にくる気配がない。さすがにこの遅さは異常だ。「なぁ、ゾルダ。 そろそろ本当にマズくないか」「確かにのぅ。 何かあったとみてよさそうじゃな」身支度をして、敵のアジトへ向かおうとしたところ……隠し通路の奥から足音と息遣いが聞こえてきた。「タッタッタッタッタッタッ…… ハァハァハァハァ……」徐々に音が大きくなる。こちらに向かってきている音だ。不測の事態に備えて剣を身構える。「ダンっ」隠し通路の扉が開くと、そこには女性と子供の姿が現れた。「ハァ、ハァ、ハァ…… あっ……あなたが……」息を切らした女性がこちらに話しかけてきた。「わ、わたしは…… リリアっ……とっ……申します。 このイハルを治める……デシエルト様の側近、エーデの妻です」この人がエーデさんの妻か。ということはフォルトナは人質の解放には成功したようだ。「初めまして、俺はアグリと申します。 あなた方を救出に参ったものです」その言葉を聞いてか、リリアさんはホッとした表情を浮かべた。「ところでリリアさん。 あなたを逃がしてくれた人は一緒に来なかったのですか?」
いいぞいいぞ。その血気盛んなところ。ワシ好みじゃ。ちまちまとやるのも飽きていたところじゃったからのぅ。大将同士一騎打ちといこうじゃないか。クロウとやらは血走った目でワシを見て、なりふり構わず突っ込んできた。なかなかいいものは持っていそうじゃが……まだまだワシが本気出さなくてもよさそうじゃ。クロウとやらの突進を余裕を持ってかわす。「ドンっ」そのまま壁に突っ込んでしまったようじゃ。壁には大きな穴が開き、パラパラと周りが崩れてきておる。「本当にお前らは突っ込むしか能がないのかのぅ。 もう少し楽しませてくれないとのぅ」壁の中から出てきたクロウとやらに言い放つ。「お前は誰だー!! オレ様をクロウ様だと知っての事か」「おぅ、クロウとやらとは知っておるぞ。 そのうえでここに来ておる」クロウとやらはちょっと驚いた顔をしておる。いいぞ、そういう顔が見たいのじゃ。「なぁ、ゾルダ。 そうあまり挑発しなくても…… 今の目的はあくまでもフォルトナの救出だったんだからさ」どうやらあやつはクロウとやらが投げ出した小娘の娘を助け出していたようじゃ。「まぁ、固いことを言うな、おぬし。 ワシの目的はここで暴れることじゃからのぅ」「アグリ、ありがとー。 ゾルダ、ボクは大丈夫だから、気にしないでー」クロウとやらの方に視線をやると、さらに驚いた顔をしておるようじゃ。「ん? 今、この女のことをゾルダって言ったか? ゾっ……ゾルっ……ダ……」「ほぅ、ワシの名前を知っておるのか」ただ血気盛んな奴だと思っていたが、このワシを知っておるようじゃな。「でもなんでお前がここにいる。 封印されていたはずじゃ……」おっ、これはワシが封印された経緯も知っておりそうじゃ。単に倒すより、まずはワシがこうなった原因でも聞こうかのぅ。「ほぅ、封印したことを知っておるのじゃな。 ゼドはワシに何をしたのじゃ。 ワシと一緒にいたやつらはどこにいったのじゃ」「オレ様は何も知らんぞ。 ゼド様から聞いただけで、何も知らんぞ」クロウとやらは、目を激しく動かしておる。動揺しておるみたいじゃのぅ。もう少し脅せば、何か言ってくれそうじゃ。「ゼドからどのように聞いたんじゃ。 ほれ、はやく話せ」「オレ様はオレ様は……」クロウとやらは何を言い淀んでおるのじゃ。
さっきのクロウとゾルダの話はなんだったのだろー『フーイン』とか『マオー』とか言っていたけどーきれいさっぱり無くなった砦の半分を眺めながら思い出す。あの二人はどう見ても知り合い的な感じだったよなー少なくともクロウはゾルダのことを知っている感じだったなー以前どこかで会ったのだろうか……でもあの怖がり方は演技だったのか本当だったのか。本当なら以前会っていて、ゾルダにコテンパンにやられたとかかなー「フォルトナ……? 大丈夫か?」アグリが心配して声をかけてくれた。こういうところは気が利くよねー「ボクは大丈夫だよ。 でも、この状態、どうしようねー」「そうだな。 どうデシエルトさんたちに報告したものか……」アグリは頭を抱えだした。まぁ、そうだよね。これだけスッキリとした状態になっちゃったしねーそう考えながらも、さっきのクロウとゾルダの話が気になっちゃう。「あっ、そうそう。 さっきのゾルダとクロウの話だけど…… フーインとか、マオーとか言っていたけど、あれは何の話?」アグリは慌てた顔で話し始めた。「どこまで聞いていた?」「うーん、そうだなー 一応全部聞こえてたけど、意味がよくわからないところもあったから」「そうか…… なぁ、ゾルダ。 話しても問題ないか?」宙に浮き満足そうに眺めていたゾルダにアグリは確認する。「ん? 何のことじゃ。 別にワシは隠しているつもりはないぞ。 もう聞かれたんだし、隠すこともないのじゃ」 思う存分、話してもいいのじゃ」「了解」アグリは確認が終わると、ゾルダのことを話しはじめた。元魔王であること現魔王を倒す目的が一緒だから共に行動していること王様から貰った剣にゾルダが封印されていることなどなど「えーっ、ゾルダが魔王だったの?」もしゾルダが怒ってクロウと同じようになったらどうしよー今までのこと、魔王に対して失礼じゃなかったかなーあのこともこのこともどうしよー大丈夫だったかなー急に心配になってきてびくびくしながら、アグリの後ろに隠れてみる。ゾルダは相変わらず不敵な笑みを浮かべている。「今のところは利害一致しているから。 何もしてこないよ……たぶん」アグリは苦笑いしながらそう答えた。確かに誰かれ構わず襲うのだったら、もう姿形もなくなっていただろなー。「てっきりボ
しかしここまで派手にやってくれると、俺の出る幕がない。楽して敵を倒せているんだからいいのだろうけど……これじゃ何のためにこの世界にきたのかわからない。ゾルダとフォルトナからは離れて一人でがれきの上に立った。こんなところを探しても何か出るもんではないと思うが……ただあの場には居づらかった。この世界に俺は必要とされていないんじゃないか……そんな考えもよぎってしまう。「俺じゃなくても世界は救われるんじゃないか」魔王だってゾルダが倒せばいいんだし……そんなに頑張らなくてもいいんじゃないかな。転移前の世界では周りに合わせて目立たないように生活をしていた。過度な期待をされても嫌だし……かといってきちんとやっていないとも思われたくない。普通にしていた……いや、頑張っても普通だったのかもしれない。それをいきなりこの世界に連れてこられて勇者に祭りあげられ期待されいつしかみんなの期待に答えなきゃと思って、気持ちが入り過ぎていたのかもしれない。でもどんなに頑張ったって、ゾルダの足元にも及ばない。これからは、そこそこ頑張って、あとはゾルダに任せよう。そんなことを考えながら、がれきを動かしては何かないかを見て回っていた。「おい、おぬし!」ゾルダが残っている砦のところから、俺に話しかけてきた。「なんだよ、ゾルダ」「今更かもしれんが、ワシと比べるなよ。 この世でワシと渡り合えるものなぞ、片手もおらん。 どうやっても追いつくのは無理じゃからのぅ」なんか見透かされたような言葉を放つ。「ただ、おぬしはおぬしなりに成長しておる。 そのままでいけばいいんじゃ。 あまり深く考えるな」確かにごちゃごちゃと考えてはいたけど、その物言いはないだろう。「何を急にそんなことを言い始めるんだ」「それはじゃのぅ…… おぬしとはなんとなくじゃが感覚を共有している感じがするのじゃ。 そのおぬしから、こう青い感じというか、こう滅入っている感じがしたものでな」確かにゾルダの気持ちというか感覚がたまに分かるときが俺にもある。それと同じ感覚なのだろうか。「…………」とは言え、言葉は出てこない。「ワシは特別じゃからのぅ。 敵わないからって、そう気に病むな。 世界中の人がほぼワシには敵わないからのぅ」ゾルダなりの励ましなのかもしれないが、ちょっと
『……さま……ねぇ……さ……』『ねえさま……どこ?』ゼドっちにこの兜に封印されたのはどのくらい前だったかな。誰かに拾われたり、捨てられたりして、あちこちに行ったけど、ねえさまは見つからない。ねえさまも同じようにゼドっちにされたのかな。でもゼドっちのやつ、なんでこんなことをしたんだろう。あの時のことを思い出すとムカつく。もーっ。ねえさまが大変だからって言ったからついていったのにさ。それが罠だったなんて。ゼドっちのやつー。プンプン。あれから、あちこち放浪して、今はどこかの倉庫の中にいるみたい。自分では動けないし、まずは誰かに見つけてもらわないとね。ねえさまが見つけてくれないかな。しかし、いつもは静かだったこの場所もなんかそうぞうしい。何が起こっているのかな。「ドドドドドドドドド……」けたたましい音が響き渡ってきた。本当にうるさいったらうるさい。「ボフっ……ガラガラガラガラ」挙句の果てに建物が崩れ落ちる音がした。この倉庫も大きく揺れていた。「ゴン、カラカラ……」マリーが封印されている兜が床に落ちた。『痛っ……』これまで何度も経験しているけど、落とされると何故か痛みが走る。『何がいったい起きたんだ、もう』暗闇の中だと何もわからない。外で何かが起きているのだろうが、知ったことではない。とにかくここから早く出たい。物凄い轟音の後は、静けさに包まれていた。不気味なほどに静かだ。昨日までは、うるさくないにせよ、誰かが行き来する声や音が聞こえていたはずなのに。『もしかして、誰もいなくなった?』『マリーはここに取り残されちゃうの?」長い間の封印されて、誰とも話が出来ないのはやっぱりつらい。ねえさまが一番だけど、まずは誰かと喋りたい。そんなことを考えていると、扉の開く音がして、光が差し込んできた。そこに立っていたのは一人の男だった。ブツブツいいながら、装備を一つ一つ丁寧に確認していっている。耳を当てたり、手で軽く叩いたりしていた。しばらくすると、マリーのところに来た。聞こえないかもしれないけど、思いっきり声を出してみた。『助けてー』ビックリした様子の男はとっさに手を引いていた。何かを感じた男は、再度マリーの兜に触ってきたので、ねえさまのことを確認しようと思った。『……さま……ねぇ……さ……』
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ